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執筆者の写真編集部

エスカレーターの手すり広告について実証してみた



はじめに


弊社が開発したゆうどうマーク。

このゆうどうマークは約1m間隔で配置することが決まっております。


手すりに視線が行くことで逆に転倒しやすくなるのではないか。

目が不自由な人にとっても役に立つのかどうか。

マークではなく、広告のみでデザインしてもバリアフリーになるのではないか。


実は、このデザインが定着するために、様々な反応があったのも事実です。

大学教授や関係各所との協力を仰ぎ、ゆうどうマークに対するひとつひとつの疑問点や解消すべき点について、検証が行われました。


今回はゆうどうマークに関する論文のまとめ記事になります。

 

晴眼者とロービジョンとは


まずは、今回論文を紹介する上で「晴眼者とロービジョン者」という言葉についてご説明いたします。


晴眼者とは読んで字のごとく、「視覚に障害のない者」を指す言葉です。 日本人においては、 視力の数値が低い人は非常に多い傾向にあるのですが、矯正器具(眼鏡やコンタクトなど)により十分な矯正視力が出れば、晴眼者と見なされるそうです。


ロービジョン者とは、視機能が弱く、矯正もできないが全盲ではない視覚障害です。 原因や症状は様々であり、ほぼ全盲のかたから特定の条件下での視力が低下するかたなど、症状に幅があります。世界保健機関 (WHO)の定義では、矯正眼鏡を装用しても「視力が0.05以上、0.3未満」の状態を指すそうです。


ちなみに、日本眼科医会の発表によると、ロービジョンの症状に悩む日本人は約145万人に上り、多くの人が生活するうえで困難を抱えているそうです。


しかし、実際の視覚障害者のうち、全盲のかたはその中で5%ほどしかおらず、ほとんどがロービジョン者だそうです。

まだまだ日本ではロービジョン者についての認知は低いそうですので、視覚的にハンデがある人のための取り組みが増えていけばよいなと、調べていて筆者自身も感じました。


(JBpress、145万人の日本人が抱える目の障害“ロービジョン”の困難を救え!、2019年9月30日号より参照


ロービジョン者への効果について


それでは実際ロービジョン者のかたに対し、どのように実験を行ったかご紹介します。

2006年にJR高崎駅新幹線ホームを使用し、「上下判断する時にエスカレーターのどこの部分を見ているか」を上り下りのエスカレーターにてゆうどうマークありなしの視認実験を行いました。




結果がこちらです。

乗り降りの際に、ステップを見ていたほとんどの被験者が、ゆうどうマークをつけることで手すりを手掛かりにしているかたが増えました。




特に下りのエスカレーターにおいては、晴眼者にとってもロービジョン者にとっても、より一層手掛かりになっていることがわかりました。


さらに、遠くの距離からエスカレーターの乗り口に向かって歩いてもらい、上り下りの判断を何秒で行えたかどうかも確認しました。さらにその際の視線の記録が下図です。



【無地ベルト条件:ロービジョン者(左)・晴眼者(右)】












【ゆうどうマーク条件:ロービジョン者(左)・晴眼者(右)】













晴眼者もロービジョン者も、ゆうどうマークがあるだけで視線が手すりに行くことが分かりました。さらに遠い位置から進行方向も把握するのに寄与し、今回は、特に転落の危険の伴う下りにおいての影響が大きいことも判明しました。


(出典:ロービジョン者のエスカレーター事故防止のためのバリアフリーマークの効果に関する研究 研究2・バリアフリーマークの効果に関する実験(2008年)、中野泰志・新井哲也・大島研介)


手すりにデザインされたゆうどうマークの間隔の効果について


次に、手すりにどういった間隔でデザインすることが、よりバリアフリーに対して効果的になるのかを実験しました。


参加者は全員が0.7以上の視力を有していましたが、ブラー・シュミレーターという、目の前にモヤのようなものがかかる板を使用し、低視力条件を確保しました。


その上で手すり部分のみを再現したミニチュア模擬装置を使い、こちらのベルトデザインを見てもらい、上り下りの方向の判断までの時間と正答率を測定しました。



実験結果は以下のようになりました。

正答率はこちらです。


反応時間はこのような結果です。


実験により、低視力条件では、広告のみ条件になると反応時間が伸びてしまい、さらに正答率もかなりガクッと下がることが分かりました。

そのため適度にしるしと広告間が離れていること、またはマークのみが一番効果的であり、より広範囲な視力に対応するためのデザインとして、上記図の右側2つが特に好ましいことがわかりました。


そのため弊社では、マーク間が広く取られたデザインを採用した内容で特許を取得しております。


(出典:エスカレーター事故防止のためのバリアフリーマーク(2)ー低視力でも上り下りを判断しやすいハンドレールのデザインの検討―(2008年)、中野泰志・新井哲也/日本福祉のまちづくり学会第11回全国大会)


ラッピングされた手すりを見たときの重心の変化


では、手すりにしるしをプリントすることの効果を実証してまいりましたが、手すりに何かしらのデザインがあると気を取られてしまい、転倒しやすいのでは?というお声もあるかと思います。


そんなお声のために、バランス感覚を測ることのできる重心動揺計を使った実験も行われました。

実験内容はこちらになります。


こちらが使用した重心動揺計です。

こちらが実際の様子になります。













被験者はまず停止中にエスカレーターに乗り込み、手すりを持って立ち、起動後すぐ手を離してもらいました。約15秒の運転後、動きは停止しました。ゆうどうマークあり条件の場合は、乗りながらしるしを見てもらうようにしました。


その結果が下の表になります。まずこちらが上り条件です。


こちらは下り条件です。


通常運転時とゆうどうマークを見ながら乗った際の身体動揺は、上りも下りも通常運転時とゆうどうマークありの条件下でほぼ同等の数値が出ました。


また、実験に際しゆうどうマークに対して、乗降時に役に立つかどうかの総合的な判断もアンケートも実施しました。


もちろん停止時と比較すれば、エスカレーターの運転による重心の移動は見受けられますが、こちらの実験結果により、ゆうどうマークがあることによって、転倒に対し大きな影響は与えないと判断され、かつ7割以上の人にしるしが役に立つと実感していただけました。


(出典:最適なエスカレーター手すりベルトマークに関する研究開発報告書、(株)日立製作所(2007年))


最後に


現在、日本エレベーター協会によりますと、協会に保守登録されている日本全国約7万基のうち、直近の集計によると、人身事故が起きたのは年間1,500件となっております。

高齢化社会に伴い、さらに事故件数は増加されると予想されます。


エスカレーターは日々の生活導線の中で、非常に私たちにとって当たり前な設備です。

そんな身近な乗りものの事故数を減らしていくのは、安心な社会をつくるうえで大変重要なことかと弊社も感じております。


冒頭で紹介したロービジョンの人や、体の不自由な人やハンデを抱えた人たちのためにも、ゆうどうマークのみならず、様々な取り組みによって住みやすい世の中の一助となるよう、今後もエスカレーターの安全な利用のために実証実績を積み重ねてまいります。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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